創業時の取引で結ぶ契約の留意点

想定読者創業を検討している方、創業して間もない会社の経営者

この記事の結論

創業期の取引は、相手方から示された契約書にそのまま署名するか、口頭やメールのやりとりだけで始まることが少なくありません。最初の取引で「業務の範囲」「支払条件」「成果物の権利」「責任の上限」の4点を書面で確認しておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。会社の設立前後に結んだ契約は、誰が当事者になっているかもあわせて確認してください。

この記事で扱うこと

創業して最初の取引を始める時期は、売上を立てることが優先になり、契約書の確認は後回しになりがちです。相手方から示された契約書にそのまま署名したり、条件を口頭で決めたまま仕事を始めたりすることも珍しくありません。

一方で、創業期は取引先も少なく、1件のトラブルが事業全体に影響しやすい時期でもあります。この記事では、創業時の取引で結ぶ契約について、最低限確認しておきたい点を整理します。

契約書がなくても契約は成立する

契約は、原則として「申込み」と「承諾」があれば成立し、書面を作ることは必須ではありません(民法522条)。口頭での合意や、メール・チャットでのやりとりでも契約は成立します。

裏を返すと、条件をはっきり決めないまま、契約だけが成立してしまうこともあります。後になって「その作業は料金に含まれていたはずだ」「支払いは納品の翌月末だと思っていた」といった食い違いが生じたとき、書面がなければ、合意の内容を示すことが難しくなります。

契約書は、契約を成立させるためというより、合意した内容を記録し、後から確認できるようにするためのものと考えると、どこまで書いておくべきかが見えやすくなります。

最初の取引で確認したい4つの点

1. 業務の範囲と完了の基準

何を、いつまでに、どこまで行えば仕事が完了したことになるのかを確認します。

  • 業務の内容と、含まれないもの
  • 納期と、納品の方法
  • 検収(相手方が内容を確認する手続)の方法と期間
  • 追加の作業が発生したときの扱いと費用

検収の期間が決まっていないと、相手方の確認が終わらないまま支払いが先送りになることがあります。「納品後〇日以内に連絡がなければ検収したものとみなす」といった定めを置くかどうかも検討します。

2. 対価と支払条件

金額だけでなく、いつ支払われるかを確認します。

  • 金額と、税込か税抜か
  • 締め日と支払日
  • 着手金や中間金の有無
  • 振込手数料をどちらが負担するか

創業期は手元資金に余裕がないことが多く、入金までの期間がそのまま資金繰りに影響します。納品から入金まで2〜3か月かかる条件になっていないか、署名の前に確認してください。

3. 成果物の権利

制作物、プログラム、資料などの成果物がある取引では、その権利がどちらに帰属するかを確認します。

著作権は、原則として作品を作った側に生じます。発注者が著作権を取得するには、契約で譲渡を定める必要があります。また、翻案権など一部の権利(著作権法27条・28条の権利)は、譲渡の対象として明記しないと、譲渡した側に残るものと推定されます(著作権法61条2項)。著作者人格権は譲渡できないため、行使しない旨を定めることが一般的です。

立場によって、確認するポイントが変わります。

立場 確認したいこと
発注する側 成果物を自由に使い、修正できる内容になっているか
受注する側 自社のノウハウや、他の案件でも使う部品まで譲渡する内容になっていないか

4. 損害賠償と責任の範囲

万一トラブルが起きたときに、どこまで責任を負うかを確認します。

  • 損害賠償に上限があるか(例:受け取った代金の額を上限とする)
  • 対象となる損害の範囲
  • 契約を解除できる場合

上限の定めがないと、受け取った代金を大きく超える賠償を求められる可能性があります。事業の規模が小さい創業期ほど、この点の影響は大きくなります。

相手方の契約書を使うときの注意

取引先の規模が大きい場合、相手方の雛形で契約を結ぶことが多くなります。雛形は作成した側に有利な内容になっていることが多いため、特に次の点を確認します。

  • 相手方だけが自由に解除できる定めになっていないか
  • 損害賠償に上限がなく、こちらの責任だけが重くなっていないか
  • 支払期日が長く設定されていないか
  • 競業を禁止する定めなど、今後の事業を制限する内容が含まれていないか
  • 自動で更新され、解約の申し出期間が短くなっていないか

修正を申し入れる場合は、すべてを直そうとするのではなく、事業への影響が大きい点に優先順位をつけて伝えると、話し合いが進みやすくなります。

会社の設立前後に結ぶ契約

設立前の契約は誰が当事者か

会社の設立前は、会社そのものがまだ存在しません。そのため、設立前に結んだ契約は、原則として契約を結んだ個人が当事者になり、設立後の会社に当然には引き継がれません。

会社に引き継ぐには、相手方の承諾を得て契約上の地位を会社に移す(民法539条の2)か、設立後に会社の名義で契約を結び直す方法があります。事務所の賃貸借やシステムの利用契約など、設立準備の段階で結ぶ契約は、誰の名義で署名したかを確認しておきます。

代表者個人の保証

事務所の賃貸借やリース、借入などでは、代表者個人の連帯保証を求められることがあります。会社の債務を個人で保証すると、会社が支払えなくなったときに、個人の財産で支払う責任を負います。

継続的な取引から生じる債務をまとめて保証する契約(根保証契約)を個人が結ぶ場合は、保証の上限額(極度額)を定める必要があります(民法465条の2)。保証を求められたときは、保証の範囲と上限額を確認してください。

取引の内容によって確認したい法律

取引の相手方や内容によっては、契約書の内容とは別に、法律で守るべき事項が定められています。

  • フリーランスに業務を委託する場合:業務の内容、報酬の額、支払期日などを、書面やメールなどで明示する必要があります(フリーランス・事業者間取引適正化等法)。
  • 規模の大きい会社から業務を受託する場合:相手方の規模や取引の内容によっては、中小受託取引適正化法(いわゆる取適法。旧下請法)による保護を受けられることがあります。
  • 一般の消費者と取引する場合:利用規約を契約の内容とするための要件(民法548条の2以下の定型約款の規定)や、消費者契約法などを確認します。

どの法律が適用されるかは、取引の内容と相手方の規模によって異なります。判断に迷うときは、取引を始める前に確認しておくと安心です。

まとめ

  • 契約は口頭やメールでも成立するため、合意した条件を書面で確認しておくことが、後の行き違いを防ぐことにつながります。
  • 最初の取引では、業務の範囲、支払条件、成果物の権利、責任の上限の4点を優先して確認します。
  • 相手方の契約書を使う場合は、事業への影響が大きい点に絞って修正を申し入れます。
  • 会社の設立前後に結んだ契約は、誰が当事者になっているか、代表者個人の保証がないかを確認します。

創業期の契約書の整備や、取引の流れに沿ったリスクの確認は、戦略法務コンサルティングでもお手伝いしています。ご相談はお問い合わせから承っています。

よくある質問

メールのやりとりだけでも契約は成立しますか。
成立することがあります。契約は、原則として申込みと承諾があれば成立し、書面は必須ではありません。ただし、条件が複数のメールに分かれていると、後から合意の内容を確認しにくくなります。取引を始める前に、合意した条件を1通の書面やメールにまとめて、相手方と確認しておくことをお勧めします。
相手方の契約書の修正を求めると、取引を断られませんか。
相手方や取引の状況によるため一概には言えませんが、契約書の修正を申し入れること自体は珍しくありません。すべてを修正しようとするのではなく、支払条件や責任の上限など、事業への影響が大きい点に絞って申し入れると、話し合いが進みやすくなります。
会社の設立前に結んだ契約は、設立後の会社に自動的に引き継がれますか。
当然には引き継がれません。設立前は会社が存在しないため、原則として契約を結んだ個人が当事者になります。会社に引き継ぐには、相手方の承諾を得て契約上の地位を会社に移すか、設立後に会社の名義で契約を結び直す方法を検討します。
創業したばかりで、どの契約から手をつければよいか分かりません。
取引の件数が多いもの、金額が大きいもの、これから繰り返し使うものから順に整えるのが現実的です。同じ種類の取引が続く見込みがあれば、自社の雛形を用意しておくと、取引のたびに一から条件を考える手間が減ります。

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